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〈川崎総合科学・上〉やるべきことを徹底し、初めてのシード権獲得



創部初の夏のシード権を獲得した川崎市立川崎総合科学は、公式戦を戦う過程で力をつけていった。春の4回戦では、昨夏日本一になった慶應義塾と対戦。1対7で敗れはしたものの、選手個々が高い集中力を発揮し互角に戦えていた。

(文・写真/久保弘毅)



星野の走塁は練習の成果


 春の3回戦で神奈川大学付属に快勝し、川崎市立川崎総合科学は、創部初の夏のシード権を獲得した。総合科学の野球部を率いて19年目の遠藤順久監督は「ウチよりも強いチームはたくさんありますから」と控えめだが、全員で束になって戦う姿勢には目を見張るものがある。


 その「らしさ」が見られたのが、春の4回戦・慶應義塾戦だった。

 1回表、総合科学は2死二塁から、2年生の4番・川端裕斗がレフト前にヒットを放ち、二塁走者の星野大翔がホームイン。1点を先制した。2死からワンヒットで二塁から生還する、当たり前のシーンにも見えるが、強豪私学が相手だと、これがなかなか難しい。遠藤監督は「この走塁がポイントだった」と振り返る。

「星野は昨年の夏、平塚学園戦で二塁からワンヒットで還れずにホームで刺されています。そこから第2リードでシャッフルして一気に還ってくるスプリントテクニックを練習してきました。楽々還ってきているように見えますけど、慶應クラスだとアウトにしてきます。あの走塁は練習の成果ですね」


 1番打者の星野も言う。

「第2リードからインパクトに合わせた1歩目は、常に練習から意識してきた部分です。本番でも練習通りできました」

 積み重ねてきたものを発揮して、総合科学が先制点を挙げた。その後は得点を奪えなかったが、8番の中村蒼太が内寄りの球をレフト線の二塁打にするなど、強豪私学を相手に臆することなくプレーできていた。



就任して19年目の遠藤順久監督。「市立は異動が少ないから」と言うが、時間をかけて野球部を強くした

全員でポジショニングを徹底


 総合科学は守備でも高い集中力を発揮していた。1回裏、慶應義塾の1番・酒井一玖の打球はライトへの大飛球になった。あと少しで柵越えかという当たりを、最初からフェンス手前で守っていたライトの田邉澪弥がキャッチした。

低反発バットでも打球を飛ばしてくる慶應打線の長打力も素晴らしいが、チーム全体でポジショニングを徹底していた総合科学野手陣も見事だった。キャプテンの諸戸聡の言葉からも、位置取りへの意識が伝わってきた。

「慶應打線は迫力があって、相手の圧に飲まれそうになりました。でも打球が速いからこそ、0歩目を全員で意識しました」

 諸戸の言う「0歩目」とは、ポジショニングや周りとの連携といった、「1歩目」を踏み出す前の準備のこと。走塁でも守備でも、スタートを切る前の段階からこだわってきたことで、全員が今やるべきことに集中できていた。


 5回終了時点で1対2。左腕エース星野の好投もあり、総合科学は慶應義塾と好勝負を演じていた。遠藤監督は言う。

「慶應戦は生徒の気持ちが入っていましたね。1球1球に集中して、ポジショニングを確認し合って。集中力を引き出してもらえたのは慶應さんのおかげでもあるんですけど、特に5回までは、思っていた以上の戦いでした」

 やってきたことは間違っていなかった。そんな確信を持てた試合内容だった。




専用グラウンドがないため等々力球場などを借りて練習する。等々力球場で練習日は学校から自転車で移動する



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