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〈鶴嶺〉上川洋瑛(3年・投手)/抜群の制球力は紛れもない才能





 投手の球速を上げるノウハウが確立されてきた。だから今は「コントロールこそが才能」と言われている。まだ線の細い上川洋瑛が評価されているのも、高校生離れした制球力があるからだ。

 

 昨秋3回戦の平塚学園戦で、面白いシーンがあった。

 左の強打者を迎えた場面で、キャッチャーの猪田大貴がインコースに構えた。上川の投じた球種はチェンジアップ。結果は逆球になったが、社会人のベテラン投手みたいな組み立てを、公立高校のバッテリーがやろうとしていた。


 上川は言う。

「僕のチェンジアップはシンカー気味に曲がるので、左打者の懐に投げたらフロントドアみたいにボールからストライクに入ってきて、打者の打ち気を逸らせるかなと思って投げました。打者に一瞬『死球かな』と思わせておいて、そこからストライクゾーンに入れていくイメージで投げました」

 猪田もサインの意図を説明してくれた。

「強豪校が相手だと、インコースを使っていかないと。速い球でインコースを意識づけしてから、同じコースに緩いチェンジアップを投げたら効果的かなと思って、チェンジアップを左打者の内側に要求しました」

 上川の制球力ありきの高度な配球である。

 とはいえ上川も最初からビタビタに放れた訳ではなかった。高2の春まではストライク率が50%ほど。無駄な四死球を出しては炎上していた。

「コントロールがよくなったと実感したのは、高2の6月。夏の大会前に、ホームベースの三塁側ならいつでもストライクが取れると確信がつきました。山下監督から『走者を出してもいいから、スコアボードに0を並べてこい』と言われて、精神的に楽になったのも大きかったです」


 ストレートの制球力がついてくると、変化球も安定してくる。「ストレートと同じ軌道で、ピッチトンネルを通す」イメージで、縦のスライダーやチェンジアップの精度が上がった。すべてのボールでストライクが取れる技術を身につけた上川は、2桁の三振を奪い、なおかつ投球数を100球前後にまとめられるようになった。

「横浜隼人とまた対戦することになったら、昨年同様苦しい戦いになると思う。だからこそ味方を信じて、磨いてきたボールで勝負したい。遠藤は確実にアウトにしてくれるから、ショートに打球が飛んだら安心です」

 仲間を思いやれる心も、上川のよさのひとつである。


(文・写真/久保弘毅)



まだ体は細いがのびしろを多く秘めている上川。遠投時にキャッチャーミットを使っているのはご愛嬌


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