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〈鶴嶺・下〉エース上川と頼もしい仲間たち。初戦を勝ち抜き、目指すはベスト8



野球の神様はいたずらだけど、時に粋な計らいを見せる。この夏の鶴嶺は、初戦で横浜隼人と横浜平沼の勝者と対戦する。昨夏の4回戦のリターンマッチが、1年後に実現する可能性が出てきた。

(文・写真/久保弘毅)



個人スキルと並行して、判断力を鍛える


 鶴嶺のノックは、常に走者をつけた実戦形式で行われる。1死二塁の想定で、ショートの遠藤が三塁に送球して、二塁走者をアウトにしていた。「これが遠藤が1年かけて積み重ねてきた判断です」と、大河原聖巳部長は目を細める。

山下監督をはじめとする指導陣が、プレーの選択肢を丁寧に伝えて、練習ではあえてギリギリのプレーにもチャレンジする。選手は「このタイミングならセーフなのか」と体で覚えながら、判断力を磨いていく。


 ゴロ捕球の基本スキルは、ノックとは別にテニスボールを使って習得する。「テニスボールを強く打ってもらって、ひじから先を脱力しながら捕るんです」と、遠藤が教えてくれた。この基礎練習は冬場だけでなく、年間を通してやってきた。



ラケットでテニスボールを打つ遠藤。テニスボールを脱力しながら捕ることで、グラブ捌きが上達する

 外野手もポジショニングに磨きをかけてきた。まとめ役のセンターの田野は言う。

「上川はコントロールがいいから守りやすい。真っすぐに力があるから、相手が引っ張れそうにないなら、外野全体を反対方向に寄せて、ファウルゾーンまで捕れるようにしたい」

 球威があって、制球に間違いのない上川がいるからできるポジショニング。新基準の低反発バットに変わったことで、ファウルゾーンへの飛球も多くなりそうだ。



本職はセンターの田野だが、もしもの事態に備えて内野も練習している

 打線は昨年同様、1番の市川瞬平が出て、3番の田野が返す形をつくりたい。2番には遠藤が入り、4番には人柄でチームをまとめるキャプテン猪田大貴が座る。昨年は9番だった上川は、今年は5番で自らを援護する。6番の熊澤太陽はスイングスピードが速く、打力は上位陣と比べても遜色ない。


 切り込み隊長の市川は口数の多いタイプではないが、昨夏の悔しさを晴らしたいと、心に誓う。

「昨年の隼人戦は全然打てなくて、悔しかった。今年は先頭打者でいい当たりを打って、チームを盛り上げたい。速い真っすぐを打ち返していきます」



1番打者の市川が出塁するのが鶴嶺打線の必勝パターン。「今年は速球を打ち返したい」と、練習から意識高く取り組んでいる

本気で8強を狙ってきた


 エースの上川はこの1年で、球数を減らすことをテーマに取り組んできた。

「無駄球を減らして、相手を見ながら打たせて取ることもできるようになりました。常にストライク先行で、1ボール2ストライクをつくるイメージで打者を追い込みたい。ストライク率は安定して70%台。調子のいい日は78%でした」

 ストライク率は60%を超えるといい方で、プロ野球の平均でも63%ぐらいと言われている。カテゴリーが違うとはいえ、70%超えは驚異的な数字だ。たとえば山本由伸(ドジャース)が初球から19球連続でストライクを投げた試合のストライク率は75%。伊藤大海(北海道日本ハム)が「マダックス(100球未満の完封勝利)」を達成したある試合では、ストライク率が74.5%だった。上川も全ての試合で「マダックス」を目指しているという。


 上川が球数を減らそうとしているのは、本気でベスト8入りを目指しているから。大一番になりそうな初戦(2回戦)は、あくまでも通過点でしかない。

 キャプテンの猪田は言う。

「昨年の夏、試合に出ていた上川、市川、田野、遠藤も、試合に出られなかったメンバーも、みんな悔しさを持って、この1年間やってきました。昨年の夏に負けた相手にリベンジを果たして、目指すはベスト8です」


 “あの夏”から1年。鶴嶺ナインはさらに成長した姿を見せてくれるだろう。



ワンバンストップの練習を繰り返す猪田。好投手・上川と組んだこの1年で、捕手としてのスキルが向上した






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